レビュー「鮮やかに肉づく異彩漫画の映画化

 王道から逸れた非典型的な女子校生を軽やかに描いた漫画「ワールドゲイズ クリップス」の劇場版である本作。そのオープニング映像から、普段制服姿では同じ印象を受けてしまいがちな彼女たちの儚さをはらんだ「素」の姿を想起させられ、本編の期待へと繋がった。

 一話目の少女たちの小さな家出を描いた「リトル・トリップ」は冒頭から構図の良い画と、淡く澄んだ空気感が展開する。また夕希を演じる未来穂香のそれこそ素を思わせる演技が天野監督の演出とうまく調和していて、物語に臨場感を与えている点も面白い。
 どこか懐かしさを感じさせる切ない演出もさることながら、この天野監督は映像の撮り方に独自の感性を光らせている。余計な被写体や明るさを排除した映像は俳優たちの体温や空気感を際立たせているし、家出をするため車で夜の町へと繰り出すシーンは、鮮やかなネオンがないにも関わらずキラキラとした印象を与え、監督の手腕を感じさせる。夕希と絢子、二人の少女の友情と嫉妬が詩的な流れで伝わり、ほのかな心地よさを後に残す作品となっている。

 続いて、十代の気持ちの変化を三人の男女を通して淡々と描いた「らくがき うわがき」。私たちの人生の中で、思いつきや正直さ、また粗暴であったりする誰かの言動が、自身に強く影響を与え、その後の行動を大きく変えてしまうということは幾度となくある。しかしそういった変化を他者からの影響だと認知しない無邪気さが、若い精神にはあると思う。佐藤すみれを始めとする俳優陣の正直な演技をバランスよく配置した物語は風通しのよい仕上がりとなっており、ある種冷酷にも感じられる十代の心の移り行きをリアルに体感できるのではないだろうか。

 最終話の「倍音」でまず特記すべきはリカを演じる松岡茉優の存在感だろう。妙にオーラがあり腰の据わった演技をする彼女は、しばしば映画のフレームを超えてこちらに迫ってくるような迫力を見せる。しかしこの話の魅力はそれだけではない。古泉葵演じる黒井の、録音した雨音を聴くという嗜みは物事に対する超越した静観ぶりを匂わせ絶句するものがあるし、それをきっかけに始まるリカとの音集めは、私たちが通常耳にしている音に対する意識を変えるほどの刺激がある。たとえ気まぐれであったとしても、限られた時間の中での誰かとの密かな交流は、互いの感性が自ずとぶつかり合う素晴らしいものであり、失せることのない輝きを放つということをこの物語は感じさせてくれる。劇中で披露される古泉のフラダンスもまた一興だ。

 各話中にはそれぞれのテーマを反映した象徴的なセリフがあり、考えさせられる瞬間がある。原作が持つ刹那の美学や日常における異空間の魅力を損なわず、新鮮なスタッフと俳優たちで映像化した本作。原作のファンはもちろん、日頃生活に物足りなさを感じている人は、この映画を通して新しいひらめきや、人生の彩りを感じてみてはいかがだろうか。

文・石岡将

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